マーケティング

マーケティングとは、簡単に言えば、「(全社的な)売れる仕組みづくり」のことをいうが、マーケティングはマーケティングであって、他の言葉では説明ができない独特の概念である。「マーケティングという言葉は今世紀初頭(20世紀初頭)までは用いられておらず、しかも現在でさえも、他の言語には“マーケティング”という言葉に相当するものはない」(ロバート・バーテルズ)という言葉さえある。

マーケティングという考え方が起こった19世期終わりから20世紀初頭とは、社会のシステムが大きく変わる過程(※)で恐慌が何度も起こる大不況の時代であった。産業革命以後続いてきた「作れば売れる時代」が終わり、その結果起こった「作ってもそのままでは売れない時代」への移行期であったと言える。一言で言うと、供給と需要のバランスが逆転していく過度期であったと言える。

※:技術革新が起こり銀の大量生産が可能になり銀の希少価値がなくなることで起きた銀本位制の崩壊、南米植民地の独立、各国のブロック経済政策など

「作ってもそのままでは売れない時代」になった結果、売り上げ不振はもはや営業一部門の問題ではなくなり(セールスマンの個人的な技術に頼った販売方法では売り上げを立てることは難しくなり)、会社全体として戦略的に売れる方法を考え出さなければならなくなった。マーケティングとは、簡単に言えば、この「(全社的な)売れる仕組みづくり」のことをいう。

この“なんとかして売れる方法”について、最初に注目されたのは、他社よりも優れた製品(サービス)を開発し安く提供することであった。それまでのものの無かった市場に大量に商品を供給することで成り立っていた経済が、一応商品が行き渡ったことで売れなくなったのだから、より品質に優れた、より機能に優れた商品やサービスを開発製造し安く提供することで購買意欲を高めよう努力することである。(これをプロダクトアウトやマーケティング1.0と言う)

やがて各社の努力により品質や昨日の優れた商品やサービスが行き渡るようになるとただ“優れている”と言うだけでは売れなくなった。そこで、次に“なんとかして売れる方法”として注目されたのが、お客のニーズを満たす製品を開発し提供することであった。ニーズとは“人間が生活を営む上で感じる「満たされない状態」”のことなので、消費者の不満を解消する商品やサービスを提案することで購買意欲を高めようと努力をすることである。(これををマーケットインやマーケティング2.0と言う)

さて品質や機能が優れているのが当たり前になり、ほとんどの不満は解消されてしまった現在では、これまでのマーケティングの考え方では購買意欲を掻き立てることが難しくなった。購買意欲を高めるための方法として現在は次の3つが主流である。

付加価値の高いモノの提案

価値とは、“その物事がどれくらい役にたつか、大切かという程度をあらわしたもの。”(ベネッセ表現読解国語辞典より)である。多くの人の関心が「自分らしく生きる」ことにシフトしてきているので、自分らしさを演出・証明する価値あるモノを提案し示すというモノ。ただし、自分にとってどんなものが価値あるのかは、自覚していないことが多いので、作り手が「提起」する必要がある。(これをデザイン・インやマーケティング3.0と言う)

顧客との関係性の構築

同じようなモノならば、相手との人間関係で購買は決定される。従って、提供の仕方や、購買決定に至るまでの顧客とのコミュニケーションを深めることが重要になってくる。顧客にとって価値の高い存在となれるよう努力し、他社ではなく当社のものを購買するように「誘惑」する。(これをリレーションマーケティングという)

電子マネー・ポイント還元制度の導入

かつてリゾートホテル内のお店では現金でなくクレジットカードオンリーであることがあった。現金よりクレジットカード払いにすると宿泊客の購買金額が上がるからである。実は、財布から現金を出すとき私たち脳では苦痛を感じる部位が活発になる。現金を支払う=苦痛と感じているため、ものを買うことに躊躇いが起こる。しかし、カード払いにすると苦痛を感じないため、その分購買行動が活発になる。家計簿をしっかりつけている主婦の場合は、記帳している段階で、使い過ぎに気づくのでその後の購買行動を控えるが、大抵の人は、そのまま気が緩んでしまう。したがってアマゾンで知らず知らずのうちに“ポチッとな”となる。ポイント還元の場合、最初から還元分は価格に上乗せされているのであるが、ポイントで安くなったという“お得感”が苦痛を抑えるため、購買行動は活発になる。(国が電子マネー導入に積極的である背景にはこのことがある)。

100年以上前に「作れば売れる時代」が終わり、その結果起こった「作ってもそのままでは売れない時代」への移行していたのだが、日本では戦後の高度成長時代・系列化が進んでいたため、この失われた20年に入って初めて「作ってもそのままでは売れない時代」であることが認識された。マーケティングとは“なんとかして売れる”ために行うを「(全社的に取り組む)売れる仕組みづくり」ことであり、またその具体的な考え方は、消費者の考え方に合わせて時代とともに変化していく。

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